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《 地上より永遠に 》

地上より永遠に

 著者:辻マリ

ハローハロー

ごきげんよう、同郷の皆様

この声は届いておりますでしょうか

今日はとてもいい天気

洗濯物を干すのにぴったりな陽気

私はペットのミィちゃんとお散歩しています

宇宙へ向けての移民船は、今どの辺りを飛んでいますか?

もうそろそろ太陽系の外に出た頃なんじゃないかと予想しています

結論から言いますと、人類は滅びませんでした

どこかの偉い学者の先生が発明した細胞無限増殖ウイルスは、ホラーゲームや映画みたいに人類を凶暴なゾンビにしてはくれませんでした

なんでも、人体実験はまだだったとか

何につけても結論を急ぎ過ぎて過程を疎かにするのは良くありませんでした

凶暴なゾンビになるかもしれないからと抗ウイルス薬を飲んだ人たちは、世界が凶暴なゾンビであふれてしまうのを恐れた某国の核攻撃で死んでしまいましたが、幸か不幸かウイルスに感染してしまった人たちは、細胞が無限に増殖する効果のおかげで生き延びました

心臓が止まったりもせず、攻撃で傷付いた身体はしばらくすれば元通りになって

さすがに頭が無くなってしまったら死んでしまいますが、それ以外の傷は時間を掛ければだいたい元通りに治ってくれました

私も、ウイルスに感染していたおかげで死なずに済みました

今は生き延びた人たちと共に新しく街を作って、そこで暮らしています

最初のうちは電気も水道も何もかも手探りで、不便な日々もそれなりに有りましたが、勉強する時間だけは沢山あったし、設備はそれぞれ無事に残っていたから、数年でなんとか軌道に乗って来ました

言葉もそうです

移民船に乗れなかった人たちがたくさんいましたが、言葉を勉強する時間もたっぷりありましたので、いろんな国の人たちとも、今では簡単にお話しする事が出来るようになりました

でも良い事ばかりかと言うと、そうでも有りません

最初の50年くらいは、取り残された人たち同士の戦争が続いていました

私の本来の職務は看護師だったので、野戦病院に駆り出されもしました

酷い話です

私は看護師と言っても、高齢者の見守りや介助を主とする業務についていましたので、あの頃は本当に目が回るような忙しさでした

正直、野戦病院や救命病棟なんかは、私に向いていないと思います

それでも、中々死なない身体になってしまった人類は、50年が過ぎるころに戦争を諦めました

このまま続けていたら本当に滅亡してしまう事に、やっと気づいたのです

本当に滅亡するのだけは嫌だと、それだけは共通認識だったようです

そこからは、皆で話し合いをするようになりました

本当に、本当に時間だけは沢山あったから、納得いくまで話し合いを続けて、最終的に平和条約が締結されたのが、移民船がこの惑星を旅立ってから、150年目の事だったと記憶しています

ええ、記憶しているんです

私もその瞬間はテレビで見ていましたから

嘘じゃ無いですよ

でも、あれからもう200年くらいですか

今暮らしている街が出来て、もう200年

カレンダーを作る職人さんによると、もっと細かい年数を教えてくれると思います

ウイルスの影響で中々死ななくなった人類は、本当に死ななくて、寿命が何年伸びてしまったのかまだ誰も分かりません

細胞が増殖して、人類は新しく進化したのかもしれません

大けがをして深刻な肉体の損傷があった人たちは、細胞の増殖効果を利用して、自分の望むように肉体改造を行えるようになりました

例えば、速く走りたいなと思った人は、下半身を増やして、足を4本以上にしてみたり

望遠鏡が無くても遠くを見られるようにしたいなと思った人は、脳と眼球を大きく発達させてみたり

空を飛んでみたい人は、二本の腕に加えて、もう二本、翼の形に近い腕を生やしてみたり

色々皆さん挑戦されています

私は、野戦病院に駆り出されていた頃に、腕がもっとあれば暴れる患者さんをしっかり押さえて傷の手当てが出来るのになって思ったり、仕事の書類を片付けながらお料理をしたいなって思っていたので、その内本当に腕が増えてしまいました

両方の肩でそれぞれ作業が出来るようになったし、ミィちゃんを撫でるのもいっぱいできるので、中々便利です

ミィちゃんは、昔は私の両腕に収まるくらい小さな体でしたけど、ミィちゃんなりに色々と思う所が有ったのでしょう

今では私を背中に乗せてお散歩してくれるくらい大きくなってくれました

ご飯の量が増えたのはちょっとだけ大変ですけど、自給自足もだいぶ慣れましたから、一人と一匹の生活を満喫しています

ミィちゃん以外の動物も、そう言えば昔と随分違う姿になりました

最近ですが、ファンタジーのドラゴンそっくりに進化した南米の鳥が発見されたそうです

昔と同じ姿の動物も勿論たくさん生き残っていますけど、傾向としてはやや大型化して、寿命が延びている動物が多いみたいですよ

移民船の皆さん、きっと今この惑星に戻ってきたら、生き物の姿が随分昔と違うのでびっくりされてしまうかもしれません

でもご安心ください

私たちは、姿は変わってしまっても、平和を愛し、平和であろうと生きています

核攻撃の影響ももうほとんど残っていません

つい10年ほど前に、除染作業がほぼ完了したとお知らせがありました

だから安心して、この惑星に戻ってきてください

きっと、みんなが歓迎してくれます

いつかまた、この地上で一緒に暮らせる時を、私は夢見ています

なので、その時までまた、ごきげんよう

通信は以上です

さあ、ミィちゃん、帰ってご飯にしよう

今日はね、隣のベンさんが大きな鯨を分けてくれたんだよ

久しぶりに鯨のハンバーグでも作ろうか

ミィちゃんは、玉ねぎ抜きね

ああ、それにしてもいい天気だなあ

明日も晴れると良いなあ

地上より永遠に 了 》

【 あとがき 】

タイトルは「地上より永遠に」って書いて「ここよりとわに」って読みます。

過去作の焼き直しと今回のこれとどっちにしようか迷ってこっちにしました。

ミィちゃんの背中は多分モフモフしています。

辻マリ

twitterアカウント https://twitter.com/tsujiml